緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 私はマイグレックヒェンが使えないことを少し残念に思いながら、ジルさんに花束の完成を告げる。

「ほう……これは。いつも可愛らしいが、今日はとびきり愛らしいな」

 ジルさんから見ても今日の花束は甘いらしい。

「いつも素晴らしい花束を有難う。今は無理だが、彼女もアンにお礼を言いたいと言っていた。ああ、それとこれはアルペンファイルヒェンが世話になった礼だ。受け取って欲しい」

 ジルさんはポケットからリボンがついた袋を取り出し、私に渡してくれた。

「そんな! お礼だなんて! ……でもすごく嬉しいです! 有難うございます!」

 受け取った瞬間、甘い香りがふわっと広がって、それがお菓子なのだと気付く。

(あれ? このマークはもしかしてかの有名なスイーツのお店「ズースィックカイテン」のお品では?!)

 貴族街にある「ズースィックカイテン」は老舗で王家御用達のお店だ。
 いつも行列ができる有名店だと聞いた事がある。

「じゃあ、俺はこれで。また来る」

 甘そうな色の花が咲くお店で、甘そうな色の花束を持ったジルさんは、甘い香りのお菓子を私に渡し、甘い笑顔を浮かべて去っていった。

 私は甘い雰囲気が残る店内で、しばらく紅茶に砂糖はいらないな、とぼんやり思った。
 




* * * * * *




❀花と食材の名前解説❀

コゥル→キャベツ

シュペック→ベーコン

ディ・コンゾミー→コンソメ

フィングストローゼ→芍薬

レースライン→ミニバラ(っぽいの)

(店名だけど)ズースィックカイテン→お菓子
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