緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 ヘルムフリートさんがこの馬車の持ち主だとすれば、ヘルムフリートさんは貴族……! と思った私は失礼のないように言葉を正す。

「ははは。嫌だなぁ。そんなに畏まらなくてもいいよ。普通にヘルムフリートって呼んでよ」

「いえ、そういう訳には……」

「こいつに気を使う必要はない。本人も言っているし呼び捨てで構わない」

「え? え? えっと、じゃあヘルムフリートさ……んで?」

 流石に呼び捨ては出来ないので、せめてさん付けにさせて貰う。二人にはそれで納得いただこう。

 何とか挨拶を済ませた私は、改めて見た馬車に戦慄した。
 ベルベットの生地に金糸で刺繍が施された内装には本革がふんだんに使われている。そして椅子はふかふかで座り心地が良く、お尻が全く痛くない。更に革に刺繍を施した折りたたみ式階段が付いていて、馬車まるごと繊細な工芸品のようだった。

(お貴族様ってすごい! でも汚しちゃったらどうしよう!)

「あの、この素晴らしい馬車はヘルムフリートさ……んの馬車ですか?」

「いいや? ジギスヴァルトの家の馬車だよ」

「は?! え? ジルさんの……?」

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