その首輪はお断りします!【マンガシナリオ】

 翼の視界いっぱいに広がる綾人の顔。

綾人「──ちょうど、欲しかったんだよね、『ペット』が」

 目を丸くする翼。シーンとなる部屋。

翼「……へ?」
翼(ペット? え、今どこからその話題になったの?)
(まさから私の事……だなんて、言わないよね?)

 混乱した翼は、引きつった笑みを浮かべながら綾人へ確認する。

翼「か、確認なんだけどさ。ペットっていうのは、どこに……」
綾人「翼ちゃんのことだよ。ワンちゃんみたいだし」

 綾人の脳内では、くぅ〜ん、と鳴くポメラニアンのような翼が浮かんだ。
 またシーンと、静寂に包まれる部屋。

翼(くっ! やっぱりペットは私の事だった!!)

 心の中でトホホ、と唇をかみしめて涙を流す翼。

翼(いや……待って)
(諦めちゃダメだ私!)
(急にペット扱いって何? 失礼すぎない? もう家族なんだし、ガツンと言わなきゃ!)

 翼は、パンっと両頬を挟むように叩いた。それを見て少しびっくりする綾人。
 意気込んだ翼だが、次に出た声は弱々しかった。

翼「あのー、それってお断りとか……?」   

 自分の不甲斐なさに、心の中でまた涙する翼。

翼(うわーん、私のばかぁ!)
綾人「なに、俺の事をお兄ちゃんって呼びたいの?」

 的外れなことを言う綾人に、目をパチクリさせる翼。

翼「え? いや、そんな事は言ってな……」
綾人「ふふっ、いいよ。ペットの次は、可愛い妹も出来ちゃったな」

 翼の話をぶった斬る綾人。

翼(あ、話聞いてないし断れない感じですね)
(てか、もうペットになってるし。そして私はまだ妹じゃなかったのっ!?)

 ガーン、とショックを受ける翼。

翼(だ、ダメだ……! この部屋にいたら確実に、今後の二人の関係性に悪影響を及ぼす!)
(はやく自分の部屋に戻ろうっ!)

翼「あ、綾人君さ、ちょっと疲れてるんじゃない?」
綾人「俺が? 別に……」
翼「いや! 綾人君は疲れてるよ!!」

 綾人に、ずいっと顔を近づける翼。

翼「私ね、綾人君とは今後お互いに少しずつ、歩み寄っていけたらなぁって思ってるから! じゃ! この辺で〜……」

 話を終わらせて、サッと立ちあがろうとした翼。

綾人「──なに帰ろうとしてんの?」

 綾人に腕を掴まれて引っ張られた。
 気づいた時には、綾人のベッドに仰向けになっていた翼。
 翼の頭の両側に腕をついて、上から見下ろす綾人。

翼「……へ?」
綾人「ペットは、ご主人様を癒してくれるんだろう?」

 徐々に近づいてくる綾人の顔。

翼「あっ綾人君!? ちょっ、ダメっ」

 翼の静止を聞かない綾人。

翼(ダメだよっ! 私たち兄妹になったのにっ──)

 顔を赤くして、ぎゅっと目をつぶる翼。
 次の瞬間、ぽすっと、軽い音が聞こえた。「え?」と目を開けた翼。
 チラリと隣を見れば、目を閉じて寝転がっている綾人。キョトンとした顔になる翼。

翼(……ん?)

 パチリ、と片目を開けた綾人。綾人は翼を胸元に引き寄せて、向き合う形になる。
 なぜか、抱き枕にされた翼。

翼(……んん??)

 綾人は再び目をつぶり、するりと翼の後頭部を撫でる。
 なでなで、なでなで。と、不思議な時間が過ぎていく。

翼(──え、これアニマルセラピー?)

 翼は綾人をガン見する。

翼(近い、いい匂い、近い、肌スベスベ、毛穴無くない? いい匂い)
(……いや何考えてんの私! 変態か!)
 
 やさしく頭を撫でられ、次第に目がとろんとしてきた翼。

翼(お風呂上がりにこれはヤバイ、眠たくなるやつ……!)

香織『翼ー?』

 二階に続く階段前で、香織が翼を呼ぶ。名前を呼ばれ、翼の体がビクッと跳ねた。

翼「っ!?」
夏織『ちょっと来て欲しいんだけどー』

翼(あっっぶない!)
(このまま寝るところだった!!)

 ベシッと綾人の手を振りほどき、ベッドから転げるように飛び起きて、翼は扉へ向かう。

翼「はーい! いっ、今行くー!」

 綾人は上半身を起こし、ベットの上に座っている。綾人の部屋を出る前に、翼はくるりと後ろを振り返った。

翼(その前に……)
(べー!)

 下を出して、べーっとする翼。
 綾人は軽く目を見開いた。
 その顔を見て「ふふんっ」と、満足気に笑みを浮かべた翼は部屋を出た。
 が、部屋を出た翼は扉に背を預け、ずるずると座り込む。そして顔を手で覆った。

 手の隙間から覗く翼の顔は、真っ赤になっている。

翼(──私、綾人君と『普通の兄妹』になれるのかな……?)

 
 一方。
 部屋の中にいる綾人は、パタンと閉じた扉を見て、クスッと笑みを浮かべた。
 自分の首元をツーッとなぞる。

綾人「──どんな首輪にしてあげようかな」
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