S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 和葉を愛すると言ってくれた柾樹の言葉、すべてが嘘だったとは思いたくない。でも、なんの疑問も抱かずに彼を信じていられるほど、できた妻にもなれなかった。

 ありがたいことに今日の芙蓉は上限まで予約が入っていて、目が回るような忙しさだった。そのおかげで余計なことを考えずに仕事に集中することができた。

 最後の客を見送ったあとで、和葉は厨房の奥で片づけをしている安吾に声をかける。

「安吾くん、本当にありがとう。こうやって芙蓉が営業できているのは安吾くんのおかげだよ」

 育郎は少しずつ店に出る時間が長くなってきてはいるものの、柾樹から『無理は厳禁』ときつく言い聞かされているので、とくに夜は早めに自宅に戻るようにしている。臨時の手伝い要員も頼んでいるが、安吾の負担は大きいはずだ。

「気にしないでください。俺みたいなのを拾って育ててくれた師匠にはでっかい恩がありますから。少しでも返せていたら本望です!」

 和葉はクスクスと笑って返す。

「安吾くんって、すっごい爽やか好青年だよね。昔、ヤンチャだったなんて全然信じられないや」
「そうですか? 初めて和葉お嬢さんと会った頃は、まだひねくれてましたけどね」
「え~、そうだったかなぁ」

 他愛ない雑談をしながら、ふたりで閉店作業を進めていく。ふと会話が止まった瞬間に、安吾は真面目な顔で和葉に向き直る。

「どうしたの? 怖い顔しちゃって」
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