S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
 その言葉になんて返していいのかわからず、和葉はうつむくしかなかった。気まずい沈黙が続いたあとで、柾樹はゆっくりと腰をあげる。

「頭を冷やしてくる。先に休んでてくれ」

 遠ざかる彼の背中に、和葉は思わず声をかけた。

「柾樹さんっ」

 彼が振り向く。

「あの、さっき……なにを言いかけたんですか?」

 熱に浮かされたようになった彼がつぶやいた言葉。

『俺は、ずっと……和葉だけを……』

(どういう意味? 私たちは知り合ったばかりよね?)

 柾樹は自嘲するように薄く笑む。

「頭がどうかしていたんだ。なんでもないから、気にするな」

 パタンと音を立てて、リビングの扉が閉められた。ひとりになった部屋で和葉は思い悩む。

(ずっと? まさか、私と柾樹さんは過去に会ったことがあるの?)

 数日後。芙蓉の昼と夜の営業の合間、短い休憩時間を和葉は育郎と過ごしていた。芙蓉の二階部分が望月家の生活スペースになっている。ふたりは茶の間で日本茶をすする。

(あれからずっと柾樹さんの言葉の意味を考えてみたけれど、やっぱり全然わからない)

 柾樹ほどの目立つ男なら、一度会えば絶対に記憶に残っているはずだ。そうなると、残る可能性は和葉の失われている記憶のなか……ということになるだろうか。

(八歳より前に会っていた? そんなことありえるかな?)
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