S系外科医の愛に堕とされる激甘契約婚【財閥御曹司シリーズ円城寺家編】
和葉は現在から過去へと、自分の記憶をさかのぼっていく。育郎と暮らしはじめた頃のことはよく覚えているのだ。彼の作る味噌汁がとんでもなくおいしくて、感動したこと。近所の子どもたちと仲良くなれてうれしかったこと。
けれど、それより奥は鍵のかかった堅牢な扉に閉ざされていて、進むことができない。
キーンと耳鳴りがして、頭がぐらりと揺れた。
(ダメ。やっぱり無理だ)
これまでだって、何度も思い出そうと努力はしたのだ。でも結果はいつも同じ。今になって、急にうまくいくはずもない。
となると、柾樹本人に尋ねてみるしかないだろうか。
(そうね。〝ゆみさん〟のことも一緒に、きちんと話をしよう)
彼女のことだけではない。
初めて会ったとき、柾樹は縁談相手であった沙月を冷淡に振った。和葉はそのことも覚えている。柾樹には和葉の知らない顔があるのかもしれない。
けれど、それも含めて彼のすべてを知りたい、教えてほしいと思った。
夜。芙蓉での仕事を終えて、和葉は地下鉄の神田駅へと歩いていた。柾樹のマンションは芙蓉から徒歩十五分程度なので、いつもは歩くのだが、今夜は激しい雨が降っているので電車に乗ることにしたのだ。傘をさしていても、肩口がぬれて気持ち悪かった。
傘を閉じて駅構内に入ったところで、向かいから歩いてきた女性に声をかけられた。
「あら。やっぱり! 芙蓉の和葉さんよね?」
けれど、それより奥は鍵のかかった堅牢な扉に閉ざされていて、進むことができない。
キーンと耳鳴りがして、頭がぐらりと揺れた。
(ダメ。やっぱり無理だ)
これまでだって、何度も思い出そうと努力はしたのだ。でも結果はいつも同じ。今になって、急にうまくいくはずもない。
となると、柾樹本人に尋ねてみるしかないだろうか。
(そうね。〝ゆみさん〟のことも一緒に、きちんと話をしよう)
彼女のことだけではない。
初めて会ったとき、柾樹は縁談相手であった沙月を冷淡に振った。和葉はそのことも覚えている。柾樹には和葉の知らない顔があるのかもしれない。
けれど、それも含めて彼のすべてを知りたい、教えてほしいと思った。
夜。芙蓉での仕事を終えて、和葉は地下鉄の神田駅へと歩いていた。柾樹のマンションは芙蓉から徒歩十五分程度なので、いつもは歩くのだが、今夜は激しい雨が降っているので電車に乗ることにしたのだ。傘をさしていても、肩口がぬれて気持ち悪かった。
傘を閉じて駅構内に入ったところで、向かいから歩いてきた女性に声をかけられた。
「あら。やっぱり! 芙蓉の和葉さんよね?」