二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
「愛情を……育て……」
「それは、眉間に皺寄せるような内容じゃないわよ。勘違いしてるのかもしれないけど。もう、このやりとりいい加減飽きたから次から思いっきり無視するから」

(そう言うなら最初から無視すれば)

「無視すればいいのにとか、思ってるでしょ」
「なっ!」

 図星を突かれ、本当に目の前にいる拓人は自分がかつていじり倒した弟なのかと、ようやく涼は本気で疑い始めた。

「あのねー……まあこれも香澄が変えたのかもしれないけれど……というか、香澄のこと限定なのかもしれないけどね……全部、表情、丸わかり」
「そんなはずないだろう」
「無理やりキリッと法廷用の顔作んじゃないわよ」

 そう言いながら、拓人はスマホを高速で操作して画面を見せてやった。
 それからすぐ、拓人はポケットにいつも忍ばせている、高級ブランドで買った手鏡を出して、涼の顔を映した。

「見なさい。デロデロに溶けた気持ち悪くて嫌らしい顔を」
「くれ」
「聞きなさい!」
「この写真を100万で買う。お前のスマホからは削除しろ」
「だから聞けっつってんだろうが色ボケ魔人が!」

 拓人が見せたのは、涼が法廷に立つために留守にしていた頃に撮影した、香澄のすやすや寝顔。

「……このデータを渡すも渡さないも私次第だけど、これで証明できたでしょう。香澄に関しては、あんた、嘘をつくどころか喜怒哀楽が丸わかりってことが」
「早くデータ」
「めんどくさいからもう良いわ」

 拓人は、1回だけ、ムカついてしょうがない気持ちを抑えるためにでっかい深呼吸をしてから「はい、続けるから」と涼を見ないようにホワイトボードに顔を向けた。

「で、続けるけど。私は、まあこの美貌だから?そこまで困ることはなかったけど、香澄や勇気は……あんたも知ってる通り、社会と少し離れてたでしょう」

 勇気についてはともかく、香澄については自ら殻に入ってしまったために、そこから引っ張り出すだけでも非常に大変だったことを、涼はよく覚えていた。

「でも、やっぱり自分の好きなものを話したい、受け止めて欲しいという気持ちは潜在的にあったりするのよ。特に香澄はそうだったわ」
「香澄が?」
「最初は、仕事以外のことは絶対話そうとしなかったのよ。きっと警戒していたのね。とにかく、自分が嫌われないように必死にメールの文章で取り繕ってたのよ。でも、ある時あの子ねぇ……ボロ出したのよ」
「ボロ?」
「そ。たまたまあげた仕事が、どーもあの子が好きな作品にちょっと絡むやつでね。……一般人には知らないような深い知識をちょろっと出してきたことがあって。つついてみたら、出るわ出るわ香澄のヲタトーク」

 そう言うと、拓人はドヤァと笑いながら涼を見下ろし、こう言った。

「あなた知らないでしょ。あの子、好きなことになると6時間はぶっ通しで話し続けるのよ」
「嘘だ……」

 涼が呆然とするのも当然だった。
 何故なら、涼が香澄と話す時、香澄は自分から話すことはあまりせず、せいぜい長くて2分、3分くらいしか連続して話してはくれないのだから。
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