二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
(来たわね、思ったより早かったけど)

 拓人は、さっき入った連絡をもう1度確認するためにスマホを見た。
 時間を考えると、少し早い気もしなくはないが、拓人が涼知れずささっと手配したタクシーを使ったと考えれば、妥当だった。

(さて、このままこのクズ銅像に1度退散してもらう、のもいいんだけど……)

 拓人は、この後の自分とドアの目の前に立っている客との間で行うべき会話のプロットを瞬時に組み立てた。

(ほんと言えば、あれをコイツに聞かせるのは私的には鬱陶しくて仕方がないから嫌だけど)

 拓人が涼に対して考えるネガティブ感情は、きっと芹沢拓人という人生を終わらせるまで消えることはない。
 だけど、そのネガティブ感情をそのまま客に移植する程、客に対しては鬼ではないのだ。

(ん〜どうしようかしら)

 そう考えた時に、もう1度チャイムが鳴った。
 これ以上は、待たせたくない。
 
「ちょっとそこの銅像さん」
「…………」
「無視してんじゃないわよ!」

 そう言いながら、拓人は「入れ」と銅像と化した、三次元の奇跡の美貌を持つ銅像もどきに命令した。

「入れるわけないだろ」
「冷静に突っ込んでくるのはいいけど、ドアの外にいるの、香澄だけど」
「えっ!?」

(え、じゃないわよ!喜んでんじゃないわよ!)

「この後、ここで香澄と話をするから、香澄の気持ち聞きたかったらここに入りなさい」
「入ります」
「エベレストのプライドどこ行った!!!」

 こうして、涼を無理やりその場所に押し込んだ拓人はそのまま玄関へと走り、扉を開けた。

「いらっしゃい、香澄」
「先輩〜……」

 泣き腫らした香澄の目を拭ってやりながら「よしよし、あーかわいそうに」とわざわざ大声で言いながら、香澄の頭をここぞとばかりに拓人は撫でてやった。
 あの場所で文字通り手も足も出ない芹沢涼に、声だけでも聞かせてやるために。

 さて、そんな涼がいる場所とは一体……。
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