二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
 殺人事件の現場では、遺体があった場所にテープでマークをつける。
 どんな風に倒れていたか。
 それは、奇妙なポーズをとっていることも多いことを涼は裁判資料でもよく見ていた。
 まさか、自分が同じようなポーズでソファの下で息を潜めることになるなんて、その時は想像すらしていなかったが。

(拓人のやつ……変な風に押し込めやがって……)

 これで少しでも動けば、ソファに頭をぶつけるだけでなく、手足がソファの外に飛び出てしまう。
 まさに、文字通り硬直状態を余儀なくされている状態なわけだ。
 息を少しでも深く吸えば、呼吸音が部屋に響きそう。
 だから浅く呼吸をしなくてはならない。
 一体何の拷問なのだ、と涼は拓人を恨みたくもなったし、綺麗に手入れしている髪が次の日ボンバーになるように髪質に合わないトリートメントと入れ替えてやろうとすら考えた。
 だが、そんなみみっちい恨みつらみも

「先輩……ありがとうございます……」

 と、可愛い香澄の声が耳に入ってしまえばすーっと消えてしまう。
 惚れるということの魔力を、涼はこういう時でも実感してしまうのだった。
 一方で、そんな香澄は今、拓人から妊婦に良いとされる超高級ハーブティーを注がれた、超高級ティーカップを恐る恐る受け取りながら俯いていた。

「ありがとうだなんて、いいのよ。私とあなたの仲でしょう」

 わざと、涼の体の中心部分に圧がかかるように、いつも以上に力強く腰掛けた拓人だった。
 それは、うまいこと涼の背中にクリティカルヒットした。

(くそっ、拓人のやつ……)

 油断をすれば声を出してしまいそうだったのを、涼は必死で抑えた。
 状況は非常に不本意とは言え、拓人が自分を押し込めたのが最終的には自分の悩みを解決してくれるであろう、ということくらいは、涼は察していた。
 ムカつきと理性はどうしても和解はしてくれないものなのも、重々わかっていた涼は自分の頭上にいる香澄を想像しながら、冷静になるように努めた。
 別のところは興奮しそうだったけれど。

「さて、それで。また助けてくださいって送ってきた理由を、説明してもらえるわね」

(助けてください……?)

「……涼先生に……今度こそ嫌われたかもしれません……」

(なっ!?)

 前も聞いたことあるような気がする「嫌われたかも発言」がどうしてこの期に及んで出てくるのか、全く理解できない涼だった。
 だが、香澄の声色から「嫌われたくない」という想いが滲み出ていることは、涼の恋心を浮き立たせた。
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