二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
 一方、拓人は拓人で実はものすごーく頭を悩ませていた。
 確かに、涼への嫌がらせをしたいという本音は嘘じゃない。
 むしろ半分以上は、占めている。
 だが、嫌がらせをすることよりは、可愛い弟子の涙を止めることを優先したいのが、師匠心というもの。
 拓人は、スマホに送られてきた香澄からのSOSの内容から、ちゃんと考えながら香澄に言葉を投げかけなければ、余計に香澄をパニックに陥らせると気づいたから。
 ちなみに書かれていた内容というのが「黒猫ニャン太の神グッズがボロボロになった死にたい」「涼先生のせいって聞いて怒りが抑えられなかった死にたい」「涼先生に大嫌いって言っちゃった死にたい」と、全ての語尾に死にたいが入っていたのだ。
 香澄がつぶやく「死にたい」というのは、例えば「推しが尊い死にたい」「ガチャ上限までやったけど爆死」というように、SNS上でヲタ仲間がよく呟くような「最高」「ショック」の大げさ表現と同じ意味なので、これまでは拓人も全くと言っていい程気にしなかった。
 むしろ「尊死理解」などと同意する言葉すら送ることもあった。
 だが、香澄の妊娠とそれにまつわるあれこれが拓人にもトラウマになっていたため

(この子は、下手をすると死ぬことも本気で考えるかもしれない)

 と、拓人は考えてしまうようになっていた。
 そのため、まず拓人は香澄の「死にたい」という気持ちが本当であると仮定し、少しでも「死にたい気持ち」を和らげるためにわざとアニメの話を振ることにしたのだ。
 1週間後を楽しみにできるアニメは、死の渇望を抑えることもあることを拓人自身も経験があった。
 だからきっと、この話から入れば香澄の死にたいがどちらの意味であっても、きっと大きなことにはならないだろうと拓人は踏んでいたのだ。
 だが、この内容は一切涼には伝えていない。このタイミングでは。

(奴に事実を伝えるにしても、効果的なやり方はあるだろう)

 香澄には癒しを。
 涼には炎の鉄槌を。
 それが、拓人が望む展開なのだ。
 今、拓人は頭のキーボードを必死に叩きながら、そのためのプロットを作り込んでいた。
 もちろん、香澄にも気づかれないように。
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