二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
(ど、どうしよう……)

 自分が作ったビーフシチューは、決して不味くはない。
 普通に美味しいとも思う。
 でも、香澄にとって、これは涼に食べさせたいものではなかった。
 つまり、失敗作。
 そんなものを涼に見られてしまうのは、香澄のとって恥ずかしいと思ってしまった。

(急いで隠さなきゃ)

 普段の香澄は慎重だ。
 味噌汁を冷蔵庫に入れる時は、ちゃんと冷ましてから入れる。
 そうしないと冷蔵庫の中も、冷蔵庫そのものも劣化してしまうとネットで見たことがあるから。
 自分の行動1つで、何かが壊れるのは香澄はやっぱり嫌だった。
 そんな軸をあっという間に取っ払ってしまうのが、恋というもの。
 この時の香澄の頭を占めていたのは、いかに涼から不完全なものを隠すか、ただ1点のみ。

「香澄?起きてる?」

 そう言いながら、リビングの扉が開かれ始めた。

(どうしようどうしよう)

 香澄は、鍋がまだ熱いのにも関わらず触れてしまった。

「あつっ!」
「香澄!?」

 香澄のちょっとした叫びに、涼は反応してくれる。
 同じ敷地内、建物にいようものならすぐに駆けつけてくれる。
 それに例外は、こうして一緒に住み始めてからはただの1度もなかった。

「待って、来ないで!」

 香澄が自分の指を冷やすか、無理やりに鍋を冷蔵庫に入れるかの判断に迷っている間に、もう涼は目の前に現れており、香澄のかすかに赤くなった指を口に含んでしまっていた。
 足元には、涼の顔よりは大きい花束が転がっていた。
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