二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
「香澄、体調が悪いみたいで、今寝かせてるんだよね」
「そそそそそれは大変ですね」
「うん。だから、今日は寝かせてやりたいんだ。悪いけどまた今度、来てくれるかい?」
「え、でも……」

 勇気は少しだけ不思議だった。
 何故なら、この家に来る直前、ちょうど香澄とこんなやりとりをしていたから。


「香澄ちゃん。無事にラストワン賞ゲットしたよ」
「マジですか。神すぎないですか」
「だって、最後の一箱買ったから」
「えっ!全部買えたんですか!?羨ましい……私もその場にいたかった……」
「赤ちゃん産まれたら、香澄ちゃんも買いに行けるよ」
「そうですね。赤ちゃん大きくなったら一緒にくじ行きたいですね」
「あ、もうすぐそっちに着くから、楽しみにしてて」
「持つべきものは趣味が同じ同志ですね」
「わかりみしかない」


 というやりとりを、勇気は悪気もなく、涼に見せながら尋ねた。

「これが数分前のやりとりだったんですけど……もももももしかしてこのやりとりの後で……」

 涼は、数十秒ほど、何も答えなかった。
 勇気は、その数十秒の間が怖いと思った。
 もしかしたら本当に香澄に、たった数分の間で何かあったのではないだろうかと、勘繰ってしまうほど。
 それからゆっくりと、涼が微笑むのを見た勇気はほんの少し安心した。
 もし香澄に何かあったなら、この人はこんな風には微笑まないことは、勇気にはわかっていたから。

「本当に数分前のことだったんだ。ほら、妊婦っていつ何があるかわからないだろう?僕たちは男だし、女性の体のことなんか分からないからね」

 言われてみて確かにと思えるくらいには、勇気はとても素直だった。

「そそそう言うことなら、仕方がないですよね……」

 勇気は、ほんの少しだけがっかりしたが、香澄の体調の方がずっと大事だった。

「じゃ、じゃあ失礼します」

 勇気は、大人しく引き下がった。
 涼がその後どんな顔になり、そしてその紙袋をどこに持っていったかを確認せずに。
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