二次元に妻を奪われたくないスパダリ夫は、壮大すぎる溺愛計画を実行する
(ど、どうしよう……!)

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 香澄は脇汗がじんわりシャツに染みていくのを感じながら、今の課題を解決する最も簡単な策を探した。

(これは、さすがに隠したい……!)

 流石に香澄も、自分がヲタだということは涼にバレていることは自覚があるし、最初はそれを理由に付き合い始めた直後でも

「やっぱり私ヲタなんで……」

 と、涼に自分との恋愛を考え直すように香澄は言い続けたくらいだった。もちろんその度に涼にはコンマ秒単位で却下されていたけれど。
 
「たとえ、ヲタ……?だろうと、香澄がいいんだよ」

 そんな風にも涼が言ってくれたのは、香澄にとっては忘れられない出来事の1つになっている。
 だが。それとこれとはやはり違う。
 これからしようとしているのは、理性を吹っ飛ばした……下手したら自分が野生に還ってしまう説すらある、神聖な撮影会なのだ。

「あーこっち見てくださいー!きゃーかわいい!」

 こんなセリフをアクスタやぬいぐるみ……なんだったらそのイラストが描かれているだけのありとあらゆる無機物に語りかけるのだ。ガチで。
 そして今、勇気という、新たな推し活仲間が増えてしまったことで、それはさぞ進化していることだろう。
 正直、興奮度120%の状態で鼻息荒くしてスマホ片手にニマニマしている様子なんて、誰が好き好んでイケメン……それも何をとち狂ったのか

「君を愛してるよ」

 と言ってくれるトップオブ神の前で出来るだろうか。
 だが、この推し活を封印しろと言われても、それはそれで無理な話。
 推し活含めて、小森香澄という人格は形成されてしまったのだから。
 だから、勇気と2人でこっそり……だが全力で自分を解放できる推し撮影会を香澄は心から楽しみにしていたし、ガチ勢なところを涼に見られて引かれるのも嫌だった。

(というか、引かれる未来しか、見えない)

 そんなこんなで香澄は、必死に準備をした撮影会セットをどうにか涼の目から隠せないかと、適当に昼寝用の毛布をがばっと被せた。

「だ、大丈夫です」

 香澄がそう言うや否や、急いで入ってきた涼は、要件も言わずに香澄をぎゅううううううううっと、お腹の赤ちゃんは苦しめないように、でも香澄はちょっとだけ苦しくなるように抱きしめてきた。
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