乙女と森野熊さん

「ごめんなさい」

謝るべきだと思って謝った。でも視線を熊さんに向けることが出来ない。
これじゃきちんと謝ってなんていない。

頭では理解できても、こんなに心配しているんだから少しくらい教えてくれても良いのに、という思いがどうしても消えないのだ。

「守秘義務は、社会に出れば多くの人が背負うものなんだよ」

私はそろっと目線を上げる。

「例えば乙女ちゃんが部屋を仲介する仕事に就いたとする。

そのお店に芸能人がやってきた。その人が家族や親友が大好きな人であっても、その事を一切漏らしてはいけない。

お店に来たくらいいいじゃないかと思うだろうが許されない。

実際に詳しい情報をSNSに流して、クビになったり損害賠償請求をされた事案だってある」

「私、そんなことしない」

「乙女ちゃんがするだなんて微塵も思っていないよ」

私はそんな馬鹿なことはしない。真奈美の事でそういう話の流れになったのだろうけど、事の重大さが違うと思う。

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