乙女と森野熊さん
「ところで」
ぼんやりしていたのを、熊さんの平坦で低い声が私を引き戻す。
「大学に行かずに公務員試験を受けるというのは本当なのか?」
すっかりばらされたことを忘れていた私は、少し怒っているようにも思える熊さんの目から逃げる。
「女子大生に憧れていただろう?」
まだ花お姉ちゃんがいた頃、バイトにサークルに、生き生きとした大学生のお姉ちゃんを見て単純に憧れた。
だからお姉ちゃんと熊さんが一緒にいるときに、大学生になりたいと話したことは確かにある。
でも状況が変わってしまった。あの時のように無邪気に責任も無く言うことは出来ない。
黙り込んだ私に、熊さんはしばらく付き合っていて、私は何を言うべきか、悪い頭で必死に考える。