乙女と森野熊さん
私は必死に聞いているのに、頭に入ってこない。
熊さんの両親が殺されていた、そんなこと普通考えも及ばない。
それも高校生になった頃、おそらく私と同じくらいの時期なのかもしれない。
私は目を見開いたまま、淡々と話す熊さんを食い入るように見る。
「俺がいれば事件は起こらなかった、そう思えた。だから俺が殺したようなものだ、そういう陰口を叩かれたこともあったし、自分でもそう思えた。
祖父母に引き取られたが、俺が仕事に就いたのを見て安心したかのように立て続けに祖父母は病で亡くなって俺は一人になった。
だからもう家族はいらないと思った。俺に関わると家族は死んでしまう気がしてね」
淡々と話しているのに、こんな弱気に取れる熊さんの内心を聞いたのは初めてだ。
「花以外と女性と交際したことはもちろんある。だが誰とも結婚する気は起きなかった。
花は思い切り俺に想いをぶつけてきたから、目を覚ませようと俺の両親の話しをした。俺と関わると不幸になるかもしれないと。
だけど花は大笑いして言ったんだ、
『なら私と結婚して。あなたを幸せにしてあげる』ってね」
ふ、と熊さんの表情が懐かしそうに優しくなる。
知らなかった。そんなことがあっただなんて。