BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~
いつの間にか、私の未来に彼の存在を想像していたのだろうか。
期待してないつもりだったけど、しっかりとショックを受けている自分がいて驚いた。
「あの、私、先に戻りますね」
「香江ちゃん待って」
くるりと背中を向けて給湯室を出ようとした瞬間、手首をグイッと掴まれ後ろに引き寄せられる。
みっくんの香りだ。大好きになってしまったシトラスの混じった甘い匂いに口を噤んだ。
「もしかして、婚姻届にサイン書いてくれたの?」
「……!!??」
「会社《こんな所》でする話じゃないけど、いつか香江ちゃんがお嫁さんに来てくれればいいなって思ってるよ」
お嫁さんという単語が頭の中で反すうして、ウェディング姿の自分を想像してしまった。
「……ほ、本当に、こんな所でする話じゃないですね」
頬が熱い。抱き締められている訳じゃないのに、みっくんの大きな手に強く握られた手首が震えて、心臓が大きく脈打ち出す。
距離が縮まって、額に軽いキスを落とされた。
固まってる私を見て、みっくんが穏やかに目を細め頭にポンと手を乗せる。
「可愛いね。このまま連れて帰りたいな」
「な、何を言ってるんですか!?」
「はは、そうだね。そろそろ、仕事に戻ろうか」
離れるのは名残惜しいけど、今は業務時間内。
部署に戻るのも流石に手ぶらじゃマズいので、2人分の珈琲を淹れた。
もう。この人、どこまで本気か冗談か分からない。
カップを持つ反対の手で熱くなった頬を冷まして
廊下を歩いていると、カツカツとヒールの音が耳に入った。
「あー、三槻くんじゃない。久しぶり~」
誰だろう?と、後ろを向くと綺麗な女の人が真っ直ぐ私達の方へと向かってくる。いや、みっくんに向かってきた。