BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~
「最初はね、食べ方が汚い無理て言われたんだ」
「……え?」
「仕方ないよね。ほら、マナーや習慣って子供の頃から何年も染み付いてる動作だからね。すぐ直せるものじゃないんだ」
「はぁ……」
「結婚して一緒に生活を共にするって、恋人同士で付き合うとは別ものでさ」
彼の口からポツリポツリと落とされる話は、彼女との結婚生活の話なのだろう。
「彼女とは仕事の取り引きでは気が合ったけど、生活の価値観が合わなかったんだよ」
眉を下げて言葉を続けていくみっくん。彼の声のトーンが低く部屋に響くから、一瞬、私の知らない男の人のように見えた。
好きと結婚は違うと、よく耳にするけど。
好きなら何でも許せちゃうものじゃないんだ。
「一緒に生活すると相手の小さな癖や、駄目なところが見えてくるからね。そんなくだらないことで?と思える事でも、毎日、不満が積もると破綻しちゃうんだよ」
「……そうなんですか」
「婚姻届はねー。ははは、ママに出されちゃったんだよ。撤回するのもお互い忙しかったし。まぁ、いいかって結婚しちゃったけど、結局1週間で別居して、1ヶ月で離婚したよ」
確かに、あのお母さんがなら出しちゃいそうだけど。随分と短い期間だったんだな。
「給湯室で、婚姻届を香江ちゃんの好きにしていいって言ったのはね。真剣に考えて、タイミングを考えたかったからだよ」
まだお酒が残ってるのかな。みっくんの優しくて柔らかい笑顔に泣きそうになって、唇をぐっと噛み締めた。