BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~
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「主任、主任。ちょっといいですか?」
部署と同じ階にある給湯室。
これ以上、変な噂をされないように。
周りに誰もいない事を確認してから、こそこそと手招きして主任を呼び出した。
「あの、上着汚しちゃってすみませんでした。母がクリーニングに出してくれて」
紙袋に入ったスーツの上着を差し出すと、目の前の彼がきょとんとした表情を見せる。
「ああ。わざわざ、ありがとう。でも部署でよかったのに」
「これ以上、周りに何か言われたら困ります」
なんて、慌てると主任がクスクスと目を細めるから、この人にも噂の事が伝わっているのだと確信した。
「主任も、迷惑ですよね。すみません」
「いや、特に恋人はいないし大丈夫」
「……ソウデスカ」
「奈良崎さんは困るの?」
頭にポンッと手を乗せられて、余裕の笑みで返されるから。完全に子供扱いされてるのが分かって、少しだけ不満を感じてしまう。
「私だって、別に困りません!」
「じゃぁ、ほっとけばいいよ。人の噂なんて過剰に反応する方が誤解されるからね」
「……はい」
「はは、素直だね。そうだ、希乃《のの》ちゃんは元気?」
「はい、めちゃくちゃ元気です!」
「なんか想像つくなぁ」
「主任の事、凄く気に入ってて。もう、"みっくんあそびくるのー。あした?あした?"って毎日しつこく聞かれてるん……」
ここまで口にして"しまった"と思った。
これじゃ、まるで遊びに来て下さいって誘ってるみたいだ。