BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~
「どうする?もう一軒行っとく?」
「あ、私は帰らなきゃ」
21時を過ぎた頃。伝票を持った鈴木さんが声をかけてくるけど、小さく首を振った。
希乃愛も泣いてないか心配だし、これ以上は遅くなれない。
「えー、帰っちゃうのー??」
笹木さんが腕に絡みついてくるから、少しだけ一緒に行きたい気持ちにもなったのも事実。
居酒屋から外に出るとひんやりとした空気に包まれるから、火照った頬を冷ますのに丁度良かった。
「また一緒に飲もうね」と口にする笹木さんも感じのイイ子だったし。
賑わう声に手を振って背を向けて別れようとした時、ある光景が目に飛び込んできた。
「ねぇねぇ。あれ、山崎さんじゃない?」
「どれどれ?」
「うわ、主任だ。隣に女の人いるし」
笹木さんの声に、青木くん、鈴木さんの言葉が続いていく。
駅前通りの高そうな飲食店から出てきたのは、山崎主任と女の人の姿だった。
「えー、彼女ぉ?ショックーなんだけど!!なんかお似合いだし」
「ただならぬ雰囲気、だよな?」
「う、うん。あれは彼女だな……て、奈良崎さん平気かよ?」
足元がよろけて鈴木さんが支えてくれたけど、それは頭を何かで殴られたような衝撃だった。
サラサラの長い髪。凄く細くて、背も高くて、遠目からでもスタイルが凄く綺麗だって分かる。
3人の会話がグサグサと胸に突き刺さり、ただ唖然と立ち尽くす事しか出来なかった。