BABY主任は甘やかされたい~秘密の子育てしています~
「接待だったんじゃねーかな?」
隣のデスクに座る鈴木さんが、ひそひそと小さな声で話しかけてくる。
同期会から3日が経過。あれから、彼はフレンドリーに話しかけてくるようになった。部署で話しやすい人が増えるのは嬉しい事なんだけど。
「ほら、あそこのJエステも主任のおかげでリース契約続いてるんだぜ。俺も何回かついてった事あるんだ」
「へー」
「そこの女社長さんが、主任の事お気に入りでさ。店も高級でストイック的な場所が多くてさぁ」
「ふーん。で、鈴木くんは何でそんな話を私にするの?」
「いやー、だってさ。奈良崎さん、主任の2ショット目撃してショック受けて凄い顔してたじゃん」
鈴木さんが、"ニヤー"と口元を緩めて冷やかすよう目を向けてくるから。
「ショックなんて受けてないし!!」
部署内に私の大きな声が響き渡って、一気に注目を浴びてしまった。
*****
恥ずかしい。ついムキになってあんなとこで叫んじゃうなんて。
給油室でコーヒーを入れながら自己嫌悪に陥り大きな溜め息が漏れた。
「……確かに、驚いたけどさ」
主任が女の人と2人でいる姿に驚いたのは認める。でも、それは決して私がショックを受けたわけじゃない。
「あれだけ可愛い可愛い言っててさぁ、よく飲み行けるよね。2人っきりでさぁ、あんな美人と……」
そうだ、こんなに苛々するのは希乃愛のことがあるからだ。
駄目だ。本当に大人気ない。
まだ謝れないままだし、あの子に言い過ぎたのは自覚している。あの日から希乃愛はふてくされるように静かになったのだけど。主任に彼女が出来たと知ったら悲しむに決まってる。
そう自分に言い聞かせて、マグカップを持って振り返ったその時──。
「はは、凄いひとり言だね」