最強の花嫁は最愛の花婿を守る為に牙を剥く
「や、やっぱり信じられないな…この俺が純花さんと一緒に歩いてるなんて…。」
「ん?尊君、何か言った?」
「い、いや、純花さんの隣を歩けるなんて、何だか夢みたいだなと思って…。」
「ごめんね、尊君。もう少し大きな声で喋ってもらえるかな。さっきから尊君の声が全然聞こえなくて…。」
「う、ううん。何でもない、気にしないで。」
言いながら、尊は純花に悟られぬよう小さく溜息を漏らした。
2人の会話が繋がらないのも無理からぬことだった。
すぐ真横の車道をつんざくようなサイレンを鳴らしながら、パトカー、救急車、そしてこれで4台目になる消防車が通り過ぎていく。
『緊急車両通ります、緊急車両通ります。前方の車、端に寄って下さい。』
『ただいま神楽町方面にて大規模な火災が発生しております。近隣住民の方は速やかに避難して下さい。繰り返します。ただいま、神楽町方面にて…。』
尊は一瞬だけ夢から覚めたような面持ちになって、後方を振り返り空を見上げた。
5月の青空を切り裂くように、地上の数ヶ所から黒い煙が昇ってゆく。
「…何だか大変なことになったね。」
「…うん。」
純花の言葉に、尊も頷く。
ここから数キロ先にある歓楽街、神楽町の地下空洞が老朽化によって一部崩落し、それに伴う大規模停電と火災が発生したのは、今から約7時間前のことだった。
1限が始まる前、壱が教室を出ていった直後の出来事である。
事故発生時のズシンという振動は大学の校舎にまで届き、教室は一時騒然となった。
しかし、その後は特に異常もなかったので、講義はいつも通りに始まりー…それが終わる頃には、神楽町崩落事故のニュースは速報で全国を駆け巡っていた。
歓楽街ならではの複雑に入り組んだ構造が仇となって、消火活動は遅々として進まず、現在も複数の建物が炎に包まれているらしい。