最強の花嫁は最愛の花婿を守る為に牙を剥く
周防壱は一仕事を終えた後、何となく、何とな~く、愛しの旦那様のことが気になって、桜坂大学に戻ってきた。
そして、アホ面全開の旦那様と学園のマドンナが一緒に正門から出てくるところを発見し、そのまま尾行を開始した。
現在、志藤尊は物陰から監視する妻の視線にも気付かず、伊藤純花に巨乳を押しつけられて、非常に幸せそうである。
街はすったもんだの大騒ぎだと言うのに呑気なもんだ。
壱はそう思いながら、何だか唐突に自分の制球力を試したくなって、足元に転がっていた石を拾い上げた。
そして、それを大きく振りかぶりー…。
「…探したぞ。電話にも出ないで何をしている、壱。」
突然、背後から声を掛けられ、投球モーションを中止した。
「義龍。」
そう言って振り返った先には、長身瘦躯の青年が立っていた。
年の頃は20代前半で、壱に負けず劣らず端整な顔立ちをしている。
ただ、その濃い黒の瞳は、恐ろしく冷たく、恐ろしく暗い。
伊能義龍(いのうよしたつ)。
半年前から諜報活動の為に日本に潜伏し、壱とも『浅からぬ』縁がある香港メンバーの1人である。
義龍が壱の不審な挙動に眉をひそめ、更に奇天烈なトレーナーに着目して、ますます不可解そうな顔をする。
「…何だ、その服。」
「格好いいだろ。今、日本の若者の間で大流行してるトレーナーなんだぜ。お前の着てるジャケットと交換してやろうか?」
「…何で石なんか持ってる?」
「ああ、最近、石を集めるのがマイブームで…。」
話せば話すほど心の距離が開いていくのを感じて、壱は口を閉じた。
そこそこ長い付き合いになるが、仲間の誰もが未だ彼が声を上げて笑うところを見たことがない。
壱は無言で石を投げ捨て、尊は知らず知らずの内に命拾いした。