恋はひと匙の魔法から
「私のために、こんなに頑張って、怪我しちゃったんですか……?」
「そうだよ。カッコ悪すぎて引いた?」
「そんなことあるわけないです……。とっても……とっても、嬉しいです……」

 感極まった胸の辺りを押さえ、ふるふると何度も首を横に振る透子に西岡は微笑みかける。
 
「透子、好きだよ。愛してる。ずっとそばにいてほしい」
「ずっと……?」
「うん、ずっと。結婚してほしいってこと」

 そう言うと、西岡は照れ臭そうに相好を崩した。透子は目を見開き、信じがたい気持ちで告げられた言葉を反芻していた。

「もしかして嫌だ?」

 あまりにも驚きすぎて、瞳を大きく開いたまま固まっていた透子だったが、彼の口元が苦笑いを浮かべているのを見てハッと我に返った。そして慌てて頭を振る。嫌なわけがない。

「私でいいんですか……?本当に……?」
「俺は透子がいい。それにそもそも結婚する気がなかったら、最初っから付き合ってないよ」

 先日西岡が言っていた、「部下との恋愛はトラブルの元」という言葉を思い出す。
 彼は付き合い始めたその日から、将来を見据えてくれていたのだ。
 
 ずっと、片想いだった。ずっと、自分ばかりが彼を好きなのだと思っていた。
 今、予期せぬ形で彼の想いの深さを知り、透子の瞳から感激の涙が一粒零れる。
 幸せすぎて、息ができなくなりそうだ。
 不意に西岡が席を立った。彼はテーブルを回り込み、透子の傍らに膝を突くと、透子の手を取りギュッと握り込んだ。

「返事、聞かせてもらえる?」

 慈愛に満ちた眼差しを向ける愛しい人を見つめながら、透子は満面の笑みを浮かべて頷くのだった。

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

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