恋はひと匙の魔法から

一つ傘

 業界の潮流や経営に関するディスカッションや新規事業創出のためのプレゼンテーションが行われる、IT企業の経営者や経営幹部向けのイベント『IT産業カンファレンス』
 
 透子は西岡と共に、そのカンファレンスに参加するべく、会場となるシティホテルへ赴いていた。そのホテルは、フェリキタスのあるオフィスビルと駅を挟んで反対側に位置している。
 
 今回、西岡はカンファレンス内で催されるパネルディスカッションにパネリストとしても登壇予定だ。『動画ビジネスのミライ』というテーマで、西岡の他に二名の経営者が壇上に上がる。
 
 透子が主催企業の担当者との挨拶を終え、会場の前方に設置された舞台の端から様子を眺めた頃には、ディスカッションは既に終盤に差し掛かっていた。
 パネリストは全員三十代ということもあり、西岡もどこかリラックスをした様子で鷹揚と動画ビジネスの今後の展望を語っている。
 
 このパネルディスカッションが終了すると、次は休む間もなく同時開催されている懇親会に出席する予定だ。
 壇上から降りてきた西岡を労いながら、足早に隣の宴会場へ移動する。
 一般参加者は入場することのできない懇親会は、謂わば異業種交流会だ。
 大規模なカンファレンスなだけあって参加人数も多く、メディアでも話題の若手経営者と懇意になりたい人間がひっきりなしに西岡の元を訪れる。息つく暇もなく歓談する西岡に付き従っていると、懇親会はあっという間に閉会を迎えた。
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