恋はひと匙の魔法から
 フードホールは、ボックスシートやテーブル席が集まるカフェエリアと立ち飲み形態のバーエリアが分かれている。
 開店した直後だというのに、バーエリアでは既に何組かの客がグラスを傾けていた。
 
 透子たちは自然とカフェエリアへ足が赴いた。
 窓際に位置するカフェエリアは、自然光を取り入れて明るく開放的な空間が演出されている。
 空いているテーブル席を確保したところで、ちょうど先週テレビで見たパフェの店の様子が目に入った。いつも行列ができていると聞いていたが、今は二組ほどしか並んでいない。
 
 これから混雑していくんだろうか。今ならほとんど並ばないで買えそうだ。でも、それよりも先ずお昼ご飯を食べないといけない……。
 そう葛藤しながら、視線は尚もパフェの店から離れない。
 すると、その様子を見た西岡が笑いを噛み殺しながら「買ってくれば?」と言ってくる。透子が何を考えていたかはすっかりお見通しだったらしい。
 透子は気恥ずかしさを覚えながらも、彼の言葉に甘えて先んじてパフェを買いに行くことにした。
 
 テレビに映っていたものと同じ、溢れんばかりの果実が盛られた蜜柑パフェを無事手にした透子が席へ戻ろうとすると、席でスマートフォンを操作する西岡の姿が視界に入る。
 観葉植物に彩られたお洒落空間の中で、西岡はここにいる誰よりもその場に調和していた。斜向かいの席に座っている女性二人組が、西岡をちらりと盗み見ては喜色を露わに囁き合っている。
 
 そんな彼の今日の連れは、これといって特筆すべきところがない透子(じぶん)。ちょっと期待外れ感があるのは否めない。
 そう考えると気後れしそうになるが、外野の目を気にして、二度とあるか分からないこの時間をふいにするのは嫌だ。
 透子は自らを奮い立たせるように、ピンと背筋を伸ばして彼の元に戻る。

「ごめんなさい、お待たせしちゃって」
「すごい並んでる。今買って正解だな」

 後ろを振り返ると、もう店の前には十組以上が列を成していた。タイミングが良かったということだろう。西岡の意見に同調しながら透子も席に座り、パフェと一緒に買ったコーヒーを一つ彼へ差し出した。
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