恋はひと匙の魔法から
「パフェもよかったら一口どうぞ」

 ついでとばかりに、二つ貰っていたスプーンの一つも彼に手渡す。
 一つの物をつつき合うほどの仲ではなく、かといってただ待ってもらうのも忍びない。食べかけを差し出すのは論外だ。
 西岡もそんな透子の思考を正確に読み取ってくれたらしい。
「じゃあ遠慮なく」と断りを入れ、溢れんばかりに盛られたフルーツとクリームの山からひと匙分を掬って口に含んだ。

「お、美味いな」
「よかったです」
「はい」

 西岡はパフェをもう一口掬うと、何食わぬ顔でスプーンを透子の口元へ近づけてきた。
 透子は何度も瞬きを繰り返し、目の前に差し出されたスプーンをまじまじと見つめる。

(えっ?食べろってこと?)

 これは所謂「あーん」という行為なのでは……。
 鈍い頭がようやくこの状況を理解した途端、透子の頭が沸き立った。
 差し出されているスプーンは今しがた西岡が口付けたものだ。これを介して食べるということは、要するに彼と間接キスをすることになるわけで。
 
 これがニヤニヤしていたり、あからさまに揶揄っているものと分かれば、「やめてくださいよ〜」と躱せるものの、西岡は平然としている。その表情が余計に透子を混乱させた。
 
 いい大人は間接キスなんて意識しないものなのだろうか。透子の反応が過剰なだけで、さして特別な行いでもないのかもしれない。
 透子が迷いに迷っていると、早くしろと言わんばかりにクリームの乗ったスプーンの先がツンと透子の下唇をつつく。
 急かされた透子は思い切ってパクリとそれを口に含むことにした。
 蜜柑の濃厚な甘味に、さっぱりとした軽い口どけの生クリームがよく合っている。これは確かに、長時間並ぶ価値はあるかもしれない。

「美味い?」
「は、はい……」
 
 美味しい。美味しいけれども……。
 こちらをジッと見つめる西岡の視線に、透子の頬にまたジワジワと熱が集まる。
 彼はパフェを食べさせ終えても、何故か透子から目を離さずにいる。透子の一挙手一投足を余すところなく観察するかのような眼差しにドギマギとしながら、透子はなんとかパフェを食べ終えた。

 そしてさしたる間も置かずに、今度はハワイ発だというカフェで注文したアボカドハンバーガーを食する。
 肉厚なパティが挟まった具沢山のハンバーガーを大口で齧っていると、ふと透子の胸に一抹の不安がよぎった。

(さ、流石に食べすぎ……?)

 透子にとってこれくらいの量は普通の範囲内なのだが、それなりの大きさのパフェをペロリと食べ終えた後で、それなりの大きさのハンバーガーを食べるのは明らかに普通の域を超えている、気がする。
 もしかしたら引かれてるかも……と背筋がヒヤリとして西岡の方を見やると、思いがけず視線がかち合った。
 西岡は口元に笑みを浮かべ、柔らかく目を細めている。そこに悪感情は見受けられず、むしろその眼差しはくすぐったくなるほどの優しさを宿していた。
 透子は赤らんだ頬を隠すように俯き、モソモソとハンバーガーに小さく齧り付いた。
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