恋はひと匙の魔法から
 ふっ、と意識が浮上し、透子はしぱしぱと目を瞬かせた。体がとてつもなく怠い、そして重い。
 視界に入るのは柔らかなオレンジ色の光に照らされた、自分の家の物とは違うグレーのシーツ。刹那、ここがどこなのか、そしてここで何をしたのかをまざまざと思い出し、透子の顔が一気に紅潮した。

(私、西岡さんと……)

 脳裏に思い起こされるのは乱れに乱れた自分の痴態の数々。どうしようもなく居た堪れなくなって、透子はグリグリと枕に顔を埋めて羞恥をやり過ごした。

 寝室は自分以外誰もいない。西岡は他の部屋――リビングにでもいるんだろうか。
 
 状況から察するに、透子は事後に寝こけてしまったらしい。
 最初で最後かもしれないデートへ臨むにあたって、知らず知らずのうちに気を張り詰めていたようだ。自覚のないまま精神を消耗していたところへ、展開が思わぬ方向へ転んでいき、そして――
 また蘇りそうになった艶めいた記憶を慌てて頭から追い出した。あれはちょっと、平時に回想するには刺激が強すぎる。

(とりあえず、起きよう……)

 腰の辺りは重いが、半ば気を失うように眠ったおかげで頭はすっきりしている。
 一糸纏わぬ姿の上、全身が汗でベタついていて、このままベッドで横たわっているのは躊躇われた。今度こそシャワーを借りよう、と身を起こそうとした時、寝室のドアがガチャリと音を立てて開いた。

< 56 / 131 >

この作品をシェア

pagetop