やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
「ひとつひとつは、取るに足りない噂であっても、それがどう大きくなっていくか、わかりません。
 モニカの巧妙なところは明言をせず、匂わせて終わるところです」

「匂わせる、の意味が分かりません」

「例えると、友人に自分が焼いたケーキを褒められた場合、モニカはこう答えます。
『叔母様から言われて、キッチンによく入るから』
それを聞いた友人は、こう想像する。
『クレイトン伯爵夫人はキッチンの仕事を、姪に命じている』。
他にも刺繍の腕を褒められると、
『何度もやり直しをすると、針仕事も慣れますから』
聞かされた人物は
『モニカは前伯爵の忘れ形見なのに針仕事をさせられ、尚且つ何度もやり直しを命じられ、虐げられている』と」


 ……なる程、脱帽ものだわ、それが匂わせるということね。
 
 真相は、実家の仕事でもあるので、母はクレイトンの果物を使ったお菓子を自分でも試作していた。
 それを側で見て教えて欲しいと言ったのはモニカの方だ。
 食べる専門の娘より、一緒に作りたいと言ってくれる姪が嬉しくて、母はよくモニカを誘いキッチンでお菓子作りに励んでいた。

 また、何度もやり直しをさせられると言われた針仕事の正体は、モニカが習いたいと言った刺繍の教師からの課題に苦労していたこと、だろう。
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