やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない

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 シーズンズの初出勤の9月第2土曜日。
 私は早朝に目覚めた。
 緊張してよく眠れなかった。


 前回も含めて、働くのはこれが初めて。
 キャンベル家には余分なお金はなかったが、生活費は毎月きちんと振り込んでくれていたし、大学は祖父が希望した学部を選んだので、学費はムーアから出ていた。
 住んでいたフラットも祖父が家賃を支払ってくれていて。


 要するに贅沢は出来なかったけれど、苦労知らずのお嬢さんだったのだ。
 私は口は良く回るが、それだけの小娘で。
 仕事でちゃんと頭は回せるのか?
 全く自信はなかった。



 従業員の皆さんへの挨拶が終わり、既にお客様が行列を形成し始めていたので店外へ出ようとすると、ベイカーさんに呼び止められて謝られた。


『説明の順番を間違えました』と仰る。
 行列の整理と事前に注文を受けるのは、2ヶ月後からで。
 9月と10月は『品出し』を主にして欲しい、と言われた。
 それは、売場の商品の補充の仕事だった。
 それをすることによって、商品の名前を覚え、必ず売れる定番商品や今何が売れ筋なのかを知ることが出来る、らしい。


 良く考えたら、その通りだと思った。
 今の私はシーズンズの商品を何も分かっていなくて、こんな状態でお客様と直接やり取りをするのは無謀な話だ。
 2ヶ月間はお客様と商品の動きを観察して、速やかに補充に努める。
 
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