やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない

33

 じぃじにも教えなかった本名を言われて、サイモンは黙った。
 相手を黙らすには、驚かすに限る。
 信じる信じないはサイモン次第。


 ここでも証が必要だと思い、先ずは先日図書室で調べた話から入ろうと思った。



「来年の6月、王都はとんでもない猛暑に見舞われて、貴方は私にクレイトンに避暑に行かせてくれ、と頼みました。
『思い出の地を案内して』なんて調子良く言われたんですが、いつも貴方は荷馬車を借りて、ふらふらとひとりで出掛けていきました。
 まさしく、うちの邸をホテル代わりにしていたんです」


 倹約を心掛けている私としては、別に責めるつもりで言っていないのだけれど、サイモンは赤面した。
 来年の夏どうこうより、ホテル代わりに、と言われたことが気になるようだ。



「モニカとの交際を秘密にされていた私は、あの夏はふたりでこそこそ会っていたんだろうとか。
 領内の経営状態を探っていたんじゃないか、とまで想像していたんですが、今なら……
 あの時の貴方はクララちゃんを引き取ってこのクレイトンで住むなら、どこが良いか探していたんじゃないか、と思っています」


 さっきまで恥ずかしげだったサイモンの口が少し開いていた。
 当たりだ。
 彼は今ではクララと住む為の具体的な予算が貯まってきているんだ。
 そして、クレイトンに住もうと思っている。
< 304 / 444 >

この作品をシェア

pagetop