やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
「当初は1週間の予定でしたが、クララちゃんと別れがたかったんでしょうね、滞在は2週間に延び、7月の夏祭りを迎えました。
 花火を一緒に見ていたら、貴方は私に指輪を渡したんです。
 祭りの露店で見つけた、泊めてくれたお礼だと言って。
 それは露店なんかでは売っていないインタリオリングでした」



 言われたサイモンが自分の胸辺りを握った。
 今はまだそこにある、インタリオリングを確認するみたいに。



 あの夜花火を一緒に見た。
『君の家族は、本物だ』そう言われた。
 私の髪をくしゃくしゃにした。
 そして渡されたインタリオリング。
 そこには、もう今はない、彼の実家の紋章が刻まれていた。


「もちろん今の私の手元にはありません。
 19歳の私の部屋に置いてありますが、記憶を元に図書室で調べました。
 『南部の貴族名鑑』です。
 あのリングに刻まれていたのは、サマセット子爵家の紋章で間違いありません。
 お祖父様からお父様、そして貴方に受け継がれていた指輪ですね?」


 サイモンの顔色が悪くなってきていた。
 何度も胸のリングの存在を確かめるように、握っては放し、握っては放しを繰り返している。


 私はそれを眺めているだけだ。
 今の時点では何とも想っていない後輩に、先祖代々のインタリオリングを渡したなんて信じられないのだろう。
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