やる気ゼロ令嬢と時戻しの魔法士*努力しても選ばれなかった私は今度こそ間違えない
 それは私も同じだったから、嫉妬してくれるオルの気持ちがよく分かる。
 私も、29歳の自分に嫉妬している、と23歳のオルに気持ちをぶつけた。



 ふたりで今、歩いてるこの道の先で。
 28歳のオルと34歳の私が笑いながら。
 自分達を嫉妬する私達を、見守ってくれている気がする。




 今度はお返しに、私がオルの手にキスした。

 そして、オルの足が止まった。
 何も言わないので、少し不安になる。



「……何で煽るの……
 今夜はおとなしくしていようと思ってたのに」

「……あ、あの、眼鏡……
 視力は悪くないよね?」

「悪くないよ、何なら夜目も利くよ?」

「つ、月が綺麗な夜の狼だから?」

「何言ってんの……俺は忠実な犬だよ?
 ご主人は、一生このひと、と決めた……」


 私が爪先立ちをしなくていいように、オルが屈んでくれた。 
 ゆっくり眼鏡を外して……


「俺はもたもたしない、って言ったよね?」

 金色の瞳から目が離せない。

 

「俺の名前を呼んで」

「……オル……オルシアナス・ヴィオン」


 オルが私の唇を。 
 いつか自分の唇にしたのと同じ様に、親指の腹で撫でた。
 
 そして、オルの顔が近付いてきて……




 オルの右目目尻に小さな黒子がある。


 私は震える左手の人差し指で、その黒子に触れた。

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