ミステリアスなイケメン俳優は秘密の妻と娘を一生離さない。


 帰り道、私はこそっと日華さんに尋ねる。


「動物園、本当にいいんですか?今ドラマの撮影中なのに」

「1日くらい何とかなるよ」

「色々と星來に合わせていただいてありがとうございます」

「いや、僕がそうしたいだけだから」

「にちかさーん、かたぐるましてー」

「よーし、行くよ〜」

「きゃーっ!!」


 日華さんに肩車してもらい、星來は嬉しそうにはしゃいでいる。


「たかい、たかーい!」

「ちゃんとつかまっててね」

「すごーい!せいら、ママよりおっきいよ!」

「そうだね、すごいね」


 少し離れたところから、笑い合う二人の姿を見守りながら思った。これは夢だ。
 (あぶく)のように生まれた直後に弾けて消える、束の間の夢。

 そう思わないと目頭が熱くなってしまう。
 私はずっと夢と(うつつ)の狭間で漂っている。

 この夢に手を伸ばしたくなる。
 そんなこと、許されるはずがないのに。

 私たちが親子として堂々と歩ける日なんて、こないのに。


「あれ……?」


 自分でも無意識に私の頬に一筋の雨が流れていた。
 二人に気づかれないうちにそれを拭い取る。

――もっと強くならなくちゃ。

 お別れをするその日まで。

 もうしばらくの間だけ、夢を見させてください。


< 49 / 195 >

この作品をシェア

pagetop