孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 テーブルに置きっぱなしだった履歴書を拾い上げてバッグに突っ込み、勢いよく立ち上がった。

「この話、お断りします!」

「遊佐さん……」

 どこか悲しそうな表情の深水さんに一礼し、ふかふかの絨毯を踏みつけるように歩き出す。ドアに手を掛けて廊下に出る間際、一瞬だけ室内を振り返った。

 設立間もないベンチャー企業を三十三歳という若さで上場させた辣腕社長は、笑いも怒りもせず、ただ静かな瞳を私に注いでいた。



 …



 本当に、なんだったんだろう、あの人。

「ひとをバカにするのも大概にしてほしい」

 キャベツの玉から葉をむしりながらつぶやくと、となりから「え、あたし?」と慌てた声がした。

 茶髪をバンダナで隠した四十代半ばの女性が、鶏肉の入った巨大なステンレスボールに調味料を注ぎながら驚いたようにこちらを見ている。

「いえいえ、リサさんのことじゃないですよ」

「なんだ、よかったぁ。なに、彼氏と喧嘩でもしたの?」

「いやあ、そうじゃないんですけど」

「喧嘩なんかしないだろ。ひかりちゃんとこはもうずっとラブラブだもんな」

 カウンター越しに太い声が厨房へ飛び込んできた。リサさんの夫である店主の修造さんが色違いのバンダナを頭に巻き、カウンターテーブルに小皿を並べて開店前の作業をしている。

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