孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 彼女の残り香が鼻をかすめる。甘ったるくて噎せそうなほど濃厚なローズの匂い。その香りが満ちた寝室で、パンツ姿の純也が後ろめたそうに頭を掻く。

「さあ……今日会ったばっかで。名前も知らない」

 眉根を寄せた私に気づき、純也は慌てた様子で弁明する。

 バンド活動の帰りに街角で出合い頭にぶつかり、彼女のスマホが落ちて割れてしまい、画面操作ができなくなるくらいひどい割れ方をして困っていた彼女に自分のスマホを貸してあげて――

 純也に私という存在がいなかったら、それはまるで運命的な出会いだったみたいな偶然の出来事をつらつらと説明された。

 同じ音楽畑にいる女性で、彼女がコンタクトを取ろうとした人物が純也と共通の知人だったとか、着信メロディから今はまっているアーティストが一緒だったとか。とにかくありえないくらいの共通点が見つかって一気に打ち解けてそのまま一緒に飲みに行くことになったとか。

「意味がわからない」

 部屋に充満する香水の匂いで気付かなかったけれど、言われてみればお酒臭い。酔った勢いで、というやつだろうか。

「……で、どのへんが深いワケなのかな」

「だから、ちがうんだよ。今日のはホントに」

 言いかけた純也がはっとしたように口をつぐむ。

「今日のは?」

 目を逸らす姿に、すっと胸が冷たくなる。

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