孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 アパートから徒歩五分の児童公園にふらっと入ると、暗がりの中で滑り台とブランコが寂しそうに佇んでいた。ブランコのひとつに腰かけ、ため息をつく。

 探そうと思えばすぐに見つけられる場所だけれど純也が追いかけてくる気配はない。私もあの部屋に戻りたくないし、戻ったとしてももうあのベッドでは寝られないだろう。

 どうしよう。

 しばらくぼんやりしていると、だんだん空腹を感じてきた。時刻はもうすぐ午後八時を回ろうとしている。

 疲れたな。それでなくても今日はいろいろあったのだ。

「キャベツ……」

 かじれば多少は空腹をしのげるだろうか。返事をするようにぐうとお腹が鳴る。

「背に腹は代えられない」

 葉を一枚むしって口に運ぼうとしたとき、背後から低い声がした。

「遊佐さん?」

 振り向くと、長身の男性が立っていた。眼鏡をかけ三つ揃えのダークスーツを着た姿には見覚えがある。

「え、深水さん?」

 驚いたような表情が公園の照明に照らされている。それは今日会ったばかりのホダカ・ホールディングスの社長秘書だった。

 私に向けられた端正な顔がふいに眉をひそめる。

「どうかなさったんですか? 若い女性がこんなところにひとりでいたら、危ないですよ」」 

「そちらこそ、どうしてここに……」

< 42 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop