孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 行く当てはどこにもない。こんなときに頼れる友人もいないし、いろどり亭には余計な心配をかけたくない。

 黙っていると、深水さんは思案するように首を傾げた。しばらくしてから人材会社のCMに出てくる俳優のように爽やかに微笑んで、人差し指を立てる。

「では、こういうのはいかがでしょう。私が宿を手配しますので、そちらへご案内します」

「え?」

「本日は遊佐さんに大変ご迷惑をおかけしましたので、そのお詫びです」

「いえ、そんな。気にしないでください」

「そうはまいりません。私としてもうら若き女性を寒空の下にひとりにしておくわけにはいきませんし、お詫びを受け入れてくださると大変ありがたいのです」

「そんなに若くもないし、寒空でもないですけど……」

 陽が落ちたとはいえ、九月下旬の空気にはまだ夏の名残がある。真面目に突っ込んでしまったけれど、彼はニコニコしたまま動かなかった。

 なるほど『うら若き』も『寒空』も深水さん特有の言い回しなのだ。場の空気を和ませるようなジョークや言葉を選びながらも有無を言わせぬ空気をまとい、最良の選択肢を提示して話を通す。

 急成長と遂げるベンチャー企業の社長秘書はやはり伊達じゃない。きっと私が首を縦に振るまで動かないつもりだ。

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