孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 身支度を整えてから一階に下り、ダイニングルームに向かった。さすがに深水さんは泊まらずに帰ったらしく姿が見えない。静まり返った広い家は大理石の無機質な雰囲気も相まって冷たい印象だ。

 本当に、美術館みたい。高級感があってどこもかしこも美しいけれど、温かみはない。まるで家主そのものだなと思った。美しいけれどどこか冷たくて近寄りがたいあの人を体現したような建物だ。

 キッチンでグラスを借り、自由に使っていいと言われたウォーターサーバの水をもらう。ふうっと息をついて昨日夕食をごちそうになった場所に腰を下ろした。

 ふとテーブルを見るとクリアファイルが置かれている。何気なく目を落として、はっとした。

『婚姻届』の三文字が目に飛び込んでくる。昨日、話の流れで穂高社長が用意しろと深水さんに命じていたものだ。

 はじめて見たそれに興味をそそられた。クリアファイルを開いて婚姻届に手をかけたとき、後ろに書類が重なっていることに気付く。針なしステープラーでまとめられたそれを見て、心臓が跳ねた。

『佐々木純也氏に関する調査資料』

「なに、これ」

 表紙のタイトルに綴られているのは、身近すぎる人物の名前。

 純也の調査資料? どうして?

 頭の中で一気に疑問が飛び交った。けれどすぐに思い至る。

< 56 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop