孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 ミーティングルームらしき小部屋をいくつか過ぎ突き当りまでくると再びドアにカードをかざす。ピッと小気味いい音が鳴って開錠されると、彼は透明のガラスで仕切られた部屋に入った。

 真ん中に鎮座するのはどっしりとしたエグゼクティブデスク。その前に二人掛けソファが向き合った応接スペースがあり、壁際に本棚とキャビネットが並んでいる。

「ここは、もしかして社長室……」

 私が勤めていた小さな工場には存在しなかった部屋だ。置かれた家具一つひとつに重厚さがあり、この空間にいるだけで仕事ができる人間になった気分になる。

 所在なくあたりを見回している私に気を留めず、穂高壱弥はデスクに着いてパソコンを起動する。その横顔をまじまじと見つめてしまった。

 今朝の寝ぼけたパジャマ姿から一転、完全にビジネスモードになった彼は誰も寄せ付けないようなぴりりとしたオーラを発している。

「あの、それで私の仕事って」

 話しかけづらい空気にまごついていると、音を立てて入り口ドアが開いた。

「社長、おはようございます」

 現れたのは深水さんだった。相変わらず三つ揃えのスーツをぴしりと身にまとい、眼鏡の奥に柔和な笑みを浮かべている。

「これは遊佐さん」

 言いかけて、「ああ失礼」と咳ばらいをひとつする。

「奥様。ご機嫌いかがですか」

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