孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 深水さんのささやき声に穂高壱弥はリモート会議を切り上げパソコンから顔を上げる。イヤホンを取ると無表情のまま口を開いた。

「深水はここで待ってろ。ひかり」

「は、はい」

 急に呼びかけられて慌てて返事をする。

「お前は同行しろ」

 そう言い残して車を降りる穂高社長をぽかんと見る。

「え」

 社長のカバン持ちとはいえ、実際のところは深水さんについて回っていたようなものだ。ビルに向けて歩道を横切っていく社長と車に残る社長秘書とを見比べていると、深水さんが微笑んだまま補足してくれた。

「神谷総合法律事務所。こちらの神谷所長がうちの顧問弁護士なんです。今日は簡単な打ち合わせなのでそう緊張なさらず」

「はあ……」

「おい、置いていくぞ」

 遠くから飛んできた鋭い声に「はいっ」と返事をする。エントランスに消えていく社長を追って急いでビルに入った。

 それにしても、神谷弁護士ってどことなく聞いたことがあるような。

 考えている間に乗り込んだエレベータが目的階の七階にたどり着く。そこには内線電話だけが置かれた受付エントランスが広がっていた。

 法律事務所なんてまったく馴染みがないからどんなところかと不安だったけれど、濃い木目調の壁と間接照明が優しく注ぐ空間は温かい雰囲気だ。

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