孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 息継ぎをするように言葉を切り、深水さんはまたなめらかに話しだす。その内容はまるで見てきたかのように詳細で、穂高壱弥の幼少時代が鮮やかに頭に浮かび上がる。

 結局、穂高壱弥が六歳のときに母子は御園邸を追い出され、ろくな支援も受けられないまま安アパートで極貧暮らしを始めた。

 そして壱弥が十四歳のとき、とうとうエミリさんが病に倒れた。彼はそのときに初めて父親を頼って御園家を訪れたものの、父親の御園健治は実の息子を追い返し、手を差し伸べてくれなかった。

 想像もしなかった話の展開に絶句する。固まっている私に寂しげな微笑を見せ、深水さんは続ける。

「その四年後、エミリさんは息を引き取りました。雪の降る寒い日で、壱弥の大学合格発表の日でした。御園健治はエミリさんの葬儀にすら来ませんでした」

 言葉が見つからない。黙っている私にうなずきかけるようにして、深水さんは淡々と言葉を紡ぐ。

「壱弥は民間の給付型奨学金制度を利用して大学の寮に入りました。テレビで父親の姿を見るたびに胸の内に怒りを滾らせ、それをエネルギーにするように起業したのです」

 ――この世の中は、平等じゃない。

 ホダカ・ホールディングスの通路からフロアを見渡していた彼を思い出す。寂しそうな顔で私を見下ろしたあの人は、自分を弱いと言った。

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