孤高のエリート社長は契約花嫁への愛が溢れて止まらない
 ――力を持たない弱い者は、手を取り合って大波に飲み込まれないように、沈まないように、もがくしかない。

 自身が設立した会社の隅っこで人知れずこぼれ落ちたあの言葉は、自分自身のことだったのだろうか。

 パンフレットに載った華々しい経歴からは想像もできないような壮絶な過去が、あの人に人形じみた無感情の顔を張り付けてしまったのかもしれない。

 他人に弱みを握られないように、心を悟られないように生活することが、彼の生き抜く術だった。胸の内には熱いものを滾らせているのに。

「そう、だったんですか」

 声がしぼむ。なにを言えばいいのだろう。今どんなに言葉を尽くしても、すべてが陳腐な響きになりそうだった。住む世界が違うと端から決めつけていた自分が、ただただ恥ずかしくてたまらない。

 夫の人となりが知りたい。

 そう望んで知り得たのは、光の中に立っているように見えた彼の、足もとに映る影。

「幻滅しましたか?」

 ハンカチを差し出されて、頬を涙が伝っていることに気づいた。

「穂高壱弥の出自は、お世辞にも華麗とは言えません」

 深水さんの眼鏡に外灯が反射して流れていく。その奥の瞳は優しいけれど、悲しげに揺れている。

「そうですね……想像していた生い立ちとはずいぶん違いました」

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