落ちぶれ令嬢として嫁いだら、 黒騎士様の溺愛が待っていました
「なるほど。いかにも都合の良い証ですね」
「嘘ではない! 実際に確かめられるがよい!」

 老齢の男がかすれた声をあげると、ヴァルテールの傍らに立つイストワール側の文官が口を開いた。

「ふむ。それにしても興味を引かれますな。〝竜使い〟はなぜかミトロジアにのみ生まれ育つ、竜種の扱いに長(た)けた素質です。産地の限定された宝石のようなもの。特に優れた素質の竜使いは、万という竜の群れを意のままに操り、どれほど遠くからでも竜を呼び寄せることができるとか」
「……少々誇張が過ぎた表現のように思いますが」

 ヴァルテールの冷ややかな反論に、文官ふうの男は気分を害した様子もなく続けた。

「確かに。が、面白いのは、竜使いの素質は高確率で遺伝するということです。子に遺伝しなかった場合は、孫に素質が表れる。更に他国出身の人間と竜使いの間であってすらも遺伝する。そうですな、ミトロジア王よ」

 ミトロジア王は苦い顔で肯定した。文官がヴァルテールに再び目を戻す。

「このようなわけでして、もし本当に竜使いの血筋だというならそれなりの価値はあります。イストワールに竜使いの素質をもたらすことができる。ヴァルテール殿、ぜひ確かめてみては」
「……あなたがそう仰るのであれば」

 ヴァルテールはプラチナに振り向いた。艶やかな黒の長靴(ブーツ)の先が、一歩踏み出す。

「非礼を先に詫びておきます」

 そう言ってヴァルテールは、指先まで黒い籠手に包まれた手を上げた。たちまち、数名の黒い兵が歩み出る。今度はイストワールの兵がプラチナを囲む。

 プラチナの右肩で、フィーが小さな手足でしがみつきながら兵に向かって牙を剥き出しにした。威嚇の音をたてる。
 黒い兵たちがわずかにためらいの気配を滲ませる。だが無言で剣を抜こうとし、プラチナは手でフィーを庇った。

「〝おとなしくして、フィー。わたしは大丈夫〟」

 竜の言葉でささやく。ヴァルテールの青い目が、わずかに細められてプラチナを眺める。

 兵たちは一度ヴァルテールに振り向くが、ヴァルテールは一つ瞬いただけで何も言わなかった。兵はプラチナに迫った。両側から腕を取られ、プラチナは首の後ろを押されて無理矢理伏せさせられる。髪を覆っていたものが取れ、ひとまとめにした長い銀髪が絨毯の上に広がった。

「何を……っ離して! 触らないで‼」

 右肩からフィーが飛び立ち、プラチナの周りで忙しなく羽ばたいて怒りのうなり声をたてる。バサッという音、男の短いうめきが聞こえる。フィーは、プラチナの両腕を取る兵の顔に突進していた。

「〝フィー、だめ! 離れて!〟」

 上体を倒すような姿勢のまま、プラチナは叫ぶ。

 ――カツ、とブーツのたてる足音が、耳に届いた。
 近づいてくる。威圧感が迫る感覚に、プラチナは息を呑んだ。
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