落ちぶれ令嬢として嫁いだら、 黒騎士様の溺愛が待っていました
左右から押さえつける兵の手が襟を引っ張り、プラチナの首をさらす。
ヴァルテールと名乗った男の黒い手が伸ばされる。そうして銀の髪をかきわけ、首の付け根を露わにした。冷えた空気が肌に触れ、プラチナの肌は粟立ち、頭にかっと血がのぼった。
――シェーヌの神聖な証。それを、見知らぬ他国の男に見られている。
父にあったものと同じ、うなじの下にある竜の鉤爪を思わせる三本の流線。普通の傷とは違い、蒼天を思わせるようにわずかに青みがかって、入れ墨のようにも見える高貴な印。
身をよじって逃れようとしても、両肩ごと兵士に押さえられて動けない。
「なるほど。確かに特徴的な痣だ」
ヴァルテールは無感動に言った。それから、青い目を持ち上げ、頭上を飛び回る小さな竜に向ける。
「……竜使い、というには少々物足りないですが、一応あの小さな獣もあなたに懐いているようだ」
プラチナは顔だけを上げ、目の前の光景を見た。威圧されたように最奥に立ちすくむミトロジア王と重臣、悠然とした様子で立つイストワールの文官、そして漆黒をまとって立つイストワールの騎士ヴァルテール。
青い瞳を持つ異国の騎士は、ミトロジア王を見て告げた。
「――では、賠償金と共に彼女を貰い受けます」
プラチナは翠の目を見開く。自分の身のことを言われているらしいのに、ひどく遠い他人事のようだった。
五年前、両親と兄が流行病で命を落としたとき、プラチナは一人置いていかれた。それからは叔父に引き取られ、使用人として扱われながらフィーと共に生きる日々だった。
叔父叔母の実子であるマルヴァはプラチナにとって年の近い従姉妹であり、義理の妹のような存在だったが、待遇は真逆だった。ミトロジアの王子妃となることが決まり、王女のように扱われるマルヴァを、プラチナはマルヴァの従竜の世話や家事雑用をこなしながら遠くで見ていた。
そんな暮らしであったから、この国から出たことなど一度もない。そもそも、叔父の邸を出ることも家事雑用目的のためだけで、旅行とは無縁の生活だった。
――そのプラチナは、イストワールの黒の兵団と共にはじめてミトロジアを出た。
あるいはもう二度と帰ることはできない、最初で最後の出国かもしれなかった。
プラチナは罪人のように手枷をつけられ、黒の兵団の馬が引く荷車に乗せられた。一部の兵は監視のためにミトロジアに残されるようだった。周りは歩兵、そして騎馬兵に囲まれている。――逃亡防止のために必要な処置です、とヴァルテールは言った。
青い目はわずかにプラチナの右肩に向き、細い肩にしがみついて周囲を威嚇する小さな竜を冷ややかに捉えた。
「その小さい獣を連れていくのは構いませんが、我が兵に危害を加えるようなことがあれば排除します」
ヴァルテールと名乗った男の黒い手が伸ばされる。そうして銀の髪をかきわけ、首の付け根を露わにした。冷えた空気が肌に触れ、プラチナの肌は粟立ち、頭にかっと血がのぼった。
――シェーヌの神聖な証。それを、見知らぬ他国の男に見られている。
父にあったものと同じ、うなじの下にある竜の鉤爪を思わせる三本の流線。普通の傷とは違い、蒼天を思わせるようにわずかに青みがかって、入れ墨のようにも見える高貴な印。
身をよじって逃れようとしても、両肩ごと兵士に押さえられて動けない。
「なるほど。確かに特徴的な痣だ」
ヴァルテールは無感動に言った。それから、青い目を持ち上げ、頭上を飛び回る小さな竜に向ける。
「……竜使い、というには少々物足りないですが、一応あの小さな獣もあなたに懐いているようだ」
プラチナは顔だけを上げ、目の前の光景を見た。威圧されたように最奥に立ちすくむミトロジア王と重臣、悠然とした様子で立つイストワールの文官、そして漆黒をまとって立つイストワールの騎士ヴァルテール。
青い瞳を持つ異国の騎士は、ミトロジア王を見て告げた。
「――では、賠償金と共に彼女を貰い受けます」
プラチナは翠の目を見開く。自分の身のことを言われているらしいのに、ひどく遠い他人事のようだった。
五年前、両親と兄が流行病で命を落としたとき、プラチナは一人置いていかれた。それからは叔父に引き取られ、使用人として扱われながらフィーと共に生きる日々だった。
叔父叔母の実子であるマルヴァはプラチナにとって年の近い従姉妹であり、義理の妹のような存在だったが、待遇は真逆だった。ミトロジアの王子妃となることが決まり、王女のように扱われるマルヴァを、プラチナはマルヴァの従竜の世話や家事雑用をこなしながら遠くで見ていた。
そんな暮らしであったから、この国から出たことなど一度もない。そもそも、叔父の邸を出ることも家事雑用目的のためだけで、旅行とは無縁の生活だった。
――そのプラチナは、イストワールの黒の兵団と共にはじめてミトロジアを出た。
あるいはもう二度と帰ることはできない、最初で最後の出国かもしれなかった。
プラチナは罪人のように手枷をつけられ、黒の兵団の馬が引く荷車に乗せられた。一部の兵は監視のためにミトロジアに残されるようだった。周りは歩兵、そして騎馬兵に囲まれている。――逃亡防止のために必要な処置です、とヴァルテールは言った。
青い目はわずかにプラチナの右肩に向き、細い肩にしがみついて周囲を威嚇する小さな竜を冷ややかに捉えた。
「その小さい獣を連れていくのは構いませんが、我が兵に危害を加えるようなことがあれば排除します」