落ちぶれ令嬢として嫁いだら、 黒騎士様の溺愛が待っていました
 手枷をつけられ、荷車に乗せられたこと以外、プラチナは虜囚のように扱われることはなかった。イストワールの黒い兵はよく統率がとれ、必要以上にプラチナに干渉しようとはしない。乱暴に扱われることもなかった。
 食事も、兵たちと同じものが与えられた。

 荷車に揺られて三日ほどした頃、ヴァルテールの隊列は止まった。そこは、イストワール側の小さな軍事拠点のようだった。天幕が密集し、やはり黒の兵たちがそこで起居している。
 だがプラチナの目を引いたのは、天幕の周り――杭に繋がれたグリフォンたちだった。

(グリフォン……‼)

 思わず、声をあげそうになった。右肩にしがみついているフィーが、警戒の声を発している。それも無理のないことだった。
 半鷲半獅子のグリフォンは、竜につぐ能力を持つ希少な生物で、飼い慣らすのは至難の業と聞く。イストワールはグリフォンを利用している、と叔父が忌々しげにマルヴァに話しているのを聞いたことがあったが、それが事実であるなどとはプラチナも思ってもみなかった。

(……だから、ミトロジアは……屈した?)

 プラチナは小さく息を呑んだ。ミトロジアの中で竜使いの存在が減少しているとはいえ、それでも竜を操る竜使いの国に、人の軍だけで対抗できるとは思えない。だが、人間の兵力だけではなかったとしたら。
 だが周りにいるグリフォンはさすがに馬よりもずっと数が少なく、数名の将官や伝令のための特別な騎獣のようだった。

 プラチナは荷車から降ろされると、ヴァルテールと数名の男に連れられてそのグリフォンのうちの一体に向かった。その一体は他よりひときわ大きく、背には鐙(あぶみ)がかけられている。
 頭と翼は白く、胴や手足は鋼(はがね)のような色をしている。ヴァルテールがグリフォンの側で立ち止まり、振り向く。そして、プラチナの傍らにいた男――ミトロジア王と会話していた文官ふうの男――に声をかけた。

「先行しますが、構いませんか?」
「ええ。あまり速度を出さないでいただけると助かります」

 文官の男はやや強ばった微笑で答える。
 ヴァルテールは、今度はプラチナに――その側の兵たちに目をやり、言った。

「では一足先に戻ります。後を頼みます」
「お任せを。どうぞ気をつけてお戻りください」

 プラチナを連れてきた男たちが恭しく答え、礼をする。
 ヴァルテールは鐙に片足をかけたかと思うと、軽く体を押し上げてグリフォンに跨がる。
 とたん、左右にいた男たちが身を屈め、プラチナを持ち上げた。

「な、何をするの……っ‼」

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