真夜中の果て ー文芸部コンビの事件帳ー
「市川さん、加瀬さんのことを名前で呼ばなかった」
「え?」
「……私達のことも呼ばなかったけどさ、『あんた』とか言ってて」
確かに。
でも。
「私も違和感があった」
「そうでしょう?」
「ずっと『ねぇ』とか、『この子』って加瀬さんのことを呼んでた。それが普通の人もいるかもだけど……、なんか友達って感じもしなくて」
「名前、知らなかったんじゃない?」
そうか。
だから、名前を呼べないんだ。
「でも」
と、息吹ちゃんは言う。
「でも、それだけだと根拠と呼ぶには十分じゃないよね」
「うん。確かに。追及したところでさ、どうとでも言い逃れ出来るもんね」
息吹ちゃんは私のメモ帳を「貸して」と、手に取る。
「彩葉ちゃん、何か他に違和感ってあったりする?」
「……うーん、私、あんまり気づかないからなぁ」
と、腕を組む。
「あっ」
「何?」
「よくわからないんだけどね、加瀬さんが言ってたことでちょっと……」
息吹ちゃんはメモ帳から顔を上げる。