君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
 喜んでいただきたい、なんて言うけれど、それは結局私のひとりよがりに過ぎない。

 私の勝手な押しつけに、聡一朗さんがうんざりしていたら――。

 不意に聡一朗さんの手が伸びてきてはっとなった。
 その大きな手が、私の頭をやさしく撫でる。
 そして、そっと私の頬を包み込み、親指で唇をなぞる。

 その手がとても熱く感じるのは、まだ私に熱があるためだろうか、それとも、胸が高鳴って顔が火照っているせいだろうか――

「愛することはできなくても、俺は君を幸せにしたいんだ」
「……」
「誰よりもなによりも大切だから」

 独り言ちるようにそっと、聡一朗さんは言った。

「だから無理はするな。まだ少し熱があるようだ。頬が赤い。まだ寝ていたほうがいい」

 毅然とした口調に戻ると、聡一朗さんは私をベッドに押し戻した。

「大学にも行っちゃだめだ。もちろん食事の準備もだ。君の分は俺が用意しておくから」
「でも……」
「一人暮らしは長いんだ。雑炊くらいは作れるよ。さぁ横になって。返事は?」
「はい……」
「よし、いい子だ」

やわらかく微笑んで聡一朗さんは部屋を出て行った。


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