君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
 聡一朗さんは気を取り直して、またいつもの無表情に戻った。

「俺の方こそ声を荒げてすまない。それらは姉の遺品なんだ。その箱は鍵が無いから開かない」
「そうなんですか……」
「でもなにかが入っているのはたしかでね、鍵をかけておくくらいだから大切な物なんだろうと処分できずにいるんだ」
「開けようとされたことはないんですか?」

 聡一朗さんは通勤鞄の中から書類などを出し、机の上に広げて黙っていた。

 おずおずと問いかける私の声が聞こえていないようだったけれども、これ以上は話したくないという思いからの振りであることは容易に伝わってきた。

 「失礼します」とか細い声で告げて、私は部屋を出て行った。

 やっぱり私が聡一朗さんのパートナーになるなんて無理かもしれない。

 そんな不安に圧し潰されて、自分の部屋に戻った途端、涙を堪えることができなかった。


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