【短編】かわいく、ワルく、甘く愛して。
「那智……今は血よりも、那智の唇が欲しい」


 いいか? と聞かれて、すぐにダメと言えなかった。

 荒れ狂っていたような心はいつの間にか落ち着いていて、ドキン、ドキン、と大きく脈打つだけ。

 累さんは私の言葉を待つようにゆっくり近づく。

 けれど、私は結局ダメだと言えなくて……。


「んっ……」


 柔らかい唇が私のそれにくっついてしまう頃には、自然と目をつむってしまっていた。

 何度かついばむようなバードキスをされたかと思うと、今度は強く押しつけられる。

 唇を舐められて、やっと私はダメだって思えた。


「ちょっ、まっ、これ以上は――んっ」

「はっ……何? 正直俺、止められないんだけど?」


 欲と熱のこもった声にゾクリと震えた。


「だめ……ダメ、ですっ……ぅん」

「何がダメ? 嫌じゃあないんだろ?」

「っ⁉」


 累さんの言う通り、ゾクゾクと震えることに少しの怖さは覚えるけれど嫌だとは思っていなかった。

 ただ、恋人同士でもないのに……累さんが違反者だって可能性がまだあるのに……こんなことをしてはダメだという理性しかない。


「んっ……だめ、私は……」

「いいから、俺に溺れてなよ……那智」


 抵抗しようと思っても、累さんのキスはキモチ良くて……。

 甘く囁く声に、私は沼にハマるように……溺れてしまった。
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